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展示資料1 ゑひす大こくかつせん 巻子 高さ31.1p 江戸時代前期写 (箱書き「鼠のさうし」〈幸田露伴筆〉) 展示キャプション 恵比寿と大黒天を総大将とした異類の合戦を描いた御伽草子。物語の中心は軽妙な言葉遊びにあふれる合戦に至る迄の使者を通じた ユーモラスな掛け合いと、陣立ての描写。本資料は首尾を欠く残巻。 紀伊和歌山徳川家付家老水野忠央(1814-1865)旧蔵。 解説 昔話等に見られる隠れ里を主題とし、「隠れ里」とも題される。鼠が西宮の恵比寿の供え物を盗み取ったことを発端に、 比叡山の大黒天と西宮の恵比寿とが反目しあい、ついには互いに眷属を呼び集めて京都の街中で対陣するにいたる物語。 布袋の仲介で双方が和睦して賑やかな宴会となるところで、全ては旅人の夢の中の出来事であったいう結末が待っている。 奥書等はないが、筆跡は江戸時代前期に奈良絵本製作にかかわった能書家・朝倉重賢(生没年不詳)のものと推定される。 本資料は首尾を欠く残巻で、末尾の印記「新宮城書蔵」は『丹鶴叢書』の編集・刊行で著名な 紀州藩付家老水野忠央(1814-1865)の旧蔵書であることを示す。 箱書「鼠のさうし」(鼠が大黒天から加勢の要請を受けるなど鼠が登場する)は幸田露伴(1867-1947)の筆によるもので、 露伴自身ないし、露伴の弟で、経済史学者幸田成友の許に置かれていたもののようである。 『室町時代物語集』では幸田成友所蔵とされており、詳細な経緯は不明であるが、野村兼太郎収集資料として 慶應義塾図書館に登録・整理され、今回、文学部古文書室へ移管されたものである。 本室所蔵の「ゑひす大こくかつせん」は、物語の中心となる、恵比寿、大黒の間の使者を通じてのやり取りや、 京都の街中での両軍の対陣にいたる部分についての詞書を欠くが、両軍の模様を描写した挿画が含まれている。 隠れ里の鼠たちも呼びかけに応じ、集まってきた諸国の鼠たちを率いて、大黒天が出陣する場面を描いた図では、 鼠の軍師たちが馬に乗っている中で、甲冑に身を固めた大黒天は、普賢菩薩のように白象にまたがった姿で描かれている。 なお、比叡山東塔大黒堂の大黒天は、右面に弁財天、左面に毘沙門天を従えた三面六臂の出世大黒天として有名であるが、 本図では三面全てが大黒天の容貌をした三面二臂として描かれていて興味深い。 一方、えびす軍については、擬人化された魚類、甲殻類、貝類を恵比寿が床机に腰掛けて率いている様子が描かれている。 『お伽草子』(岩波文庫版)には、龍宮城の龍王に使いを送り集めた軍勢は十万八千余騎にのぼったと記され、 恵比寿は「八尋の熊鰐に銀の轡をはませ、出で立ち給う」と記されている。 参考 島津久基編『お伽草子』岩波書店、1936 横山重・太田武夫『室町時代物語集』第五 大岡山書店、1942 石川透「慶應義塾図書館蔵[隠れ里]解題・翻刻」、『三田國文』37号、2003年3月 梶井重明「紀州新宮城主水野忠央旧蔵『古事談』と天保改革の出版検閲「学問所改」」、『こだま』137号、2000年4月 塩川和広「『隠れ里』の研究:諸本を中心に」、『立教大学日本文学』105、2010年12月 トップに戻る 翻刻 本室所蔵資料については参考文献中の石川2003に、東京大学国文学研究室所蔵資料については、島津1936、横山1942にそれぞれ全文の復刻が掲載されている。 なお、古文書室所蔵資料では、残された挿し絵と詞書きとが対応していない部分が少なくない。 トップに戻る
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